PROJECT

三条会商店街の京町家プロジェクト【令和3年度選定】

[ 京町家で夢を叶える ]
二条城や神泉苑にほど近い「三条会商店街」には、三条通沿いに様々な店舗が約180軒も建ち並んでいます。この商店街に自然食品店など既に3店舗を構えているプレマ株式会社の中川信男さんは、商店街をますます元気にするため、魅力ある店舗づくりを心掛けておられます。商店街にある数少ない京町家をどうしても残したいと考え、この京町家を購入され、「いつかは京町家を自分で」という夢を叶えられました。ほとんどが自然素材を用い、職人さんの手作りで建てられている京町家は、自然への拘りをもつ中川さんにとって親しみを感じるものだったのかもしれません。この改修では、伝統技術によって京町家を元の姿に戻し、通りからも目を引く店構えとなりました。また、飲食店を営む傍らで、先々は「子ども食堂」や地域の方々を対象としたワークショップ、各種文化教室など、地域に開かれた場にしたいという中川さんの想いはきっと実現されると願っています。

令和3年度選定 三条会商店街の京町家 ープレマルシェ京町家@京都三条ー
■工事内容 :屋根、外壁、建具修復
■工期:令和2年12月~4年10月

VOICE
[所有者より]
プレマ株式会社 代表取締役 中川 信夫 氏
堀川通から千本通に至る我らが三条会商店街は、昭和中期の商店街の写真によると人が溢れる、さぞかし賑やかな場所だったと想像されます。その後いっとき衰退しかけたものの、現在は歴史ある商店と元気な新しい商店が混在することで新たな息吹を吹き返しています。しかし、時代の流れとともに建物はコンクリートなどで覆われ、一見してビルなのか京町家なのかわからない風情の店舗もある中、京町家として復元改修するべき建物が空き家になったことを知り、すぐさま購入して京町家作事組にご相談、京都市景観・まちづくりセンターのファンドのご支援も受け、この建屋が建てられた明治期の状態に似たファサードを取り戻すことができました。私はこの場所を飲食店経営と並行して、子どもから高齢者、国内外の観光客が集える、思い出をつくる場所として再起動しようと考えています。まだ、その構想実現の途中ではありますが、商店街に復活した京町家が一人でも多くの人の目に触れ、また人が集まる場所となることを目指している最中です。
                                     プレマ株式会社HP

改修前

改修中

[ 技術と素材の力]
改修前は、一見すると京町家だと気付かないような外観でした。構造体とファサードは伝統構法に長けた京町家作事組に、内装は中川さんが運営する自社で改修するという役割分担で工事が進められました。商店街特有のアーケードとの接合部に工夫も必要でしたが、店構えには虫籠窓や出格子が復活しました。多くのファンド事業の外観については、解体中に発見する痕跡や古写真などからオリジナルのデザインを考察し、これからの使い方にとってより良いデザインを現場で創り上げていただいています。この工事では建物全体と奥のお庭、蔵まで、素材を厳選し丁寧に改修されました。お庭の水琴窟は澄んだ音色を愉しめます。蔵はワークショップ、展示、コンサートなど多目的に活用できる空間になりました

設計・施工  一般社団法人京町家作事組
設計担当  末川協建築設計事務所
施工担当  株式会社 大下工務店 

VOICE
[改修のポイント]
末川 協 氏(末川協建築設計事務所)
施主から京町家作事組への要望は軸組構造の健全化と外観の復元まで。構造改修では東西いずれの側壁にも布基礎が追加されており、その撤去と延べ石基礎の新設、柱脚の根継ぎを行った。同時に建物の傾きや沈下の補正も行ったが、建物が一体化している東隣家側の補正は今後に持ち越した。切られていた通し柱の復旧と母屋の継手下の束新設を行った。内装では柱脚廻りや要所の荒壁の付直しまで。外装ではヒトミ梁とオモテの側柱の痕跡から1階の東腰の鎧貼りと西側の出格子を特定した。その間にガラス格子戸を嵌め今後の店舗活用に備えた。2階では桁下の束の痕跡から虫籠窓を復元した。さらに工事中にオクドさん移設や鉄骨階段設計のお手伝いが加わった。もとの町家の1階はすべて大和天井で、間口いっぱいのササラのワンフロア、東側壁上部の卯達は築造時からのもので側柱に母屋が差さる。和釘の使用からも相当に古い町家であった。  

VOICE
[施工にあたり]     
大下 尚平 氏(株式会社 大下工務店) 
大きく改変されている建物の柱や桁等の痕跡をたどり復元することと、近隣の同時期に普請された町家を手本に各部材の寸法や修まり等を調整することで、出来る限り当時の姿に近づけ、通りや地域に違和感の無い改修を心がけました。 

[格子を開けると“オクドサン”]
通りから店内に入って最初に目に飛び込んでくるのが、長年磨かれた煉瓦が艶やかなオクドサン。当財団の紹介で、伏見区の京町家で改修のために撤去されたオクドサンを、中川さんに譲り受けていただきました。移設工事自体が珍しい上に、緻密な作業が行われ注目を集めました。このオクドサンは、「“食の原点”を考えるにふさわしい場所にしたい」という所有者の思いを表現する店のシンボルになっています。

COLUMN
[町家博士 大場ファンド委員長より]
京町家まちづくりファンド委員長
大場 修 氏 立命館大学 衣笠総合研究機構 教授
京都で最も活気のある商店街の一つである三条会商店街に、京町家が蘇りました。雨の日でも快適に買い物ができるアーケード街ですが、それぞれのお店の壁面を揃え屋根を隠し「看板建築」とすることで、長く延びたトンネルのような景色をつくっています。今回の改修は、元々は軒高も外観もまちまちで多様であった店舗の外観を甦らせる挑戦でした。綿密な調査に基づいて、アーケード街に本物の町家の姿を取り戻したことは、まさに大きな「事件」というべきでしょう。近代化の象徴であるアーケード街に、わずか2間半程の「隙間」とはいえ、埋もれていた「三条通の歴史」を掘り起こし再生したインパクトは、京都らしい商店街のあり方と魅力を再考する契機に、必ずやなるはずです。

※この記事の内容は記録集に記載しています。

場所

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