京都大学名誉教授 三村 浩史 氏
1980年代くらいから、京都らしい都市住宅のあり方といったテーマの研究を京都市や建設省から受託しました。当時はバブルの真っ最中で、「この町家は京都の都市と町衆の歴史の象徴なんだがら大事に住んで使ってくださいね。」なんて言うと、「あなたの言うことを聞いていると私は何億円も損をする。」とよく言われました。当時は、坪当たり単価が5百万もの値段がついて、短冊の敷地は前の方は高いのですが、奥の方は安いんですけども、それでも欲で胸算用した単価をかけて計算して、「私の敷地だけで五億円はくだらない。それを残せなんてあなたの言うことを聞くとそれがパーになる。」なんて言われたものです。そのうちに、バブルもはじけて、かつて五億円といっていたのが数千万円になって、その代わりにマンションとかビルとか駐車場ばかりが増えてきまして、町家がどんどん消えていきました。バブルのせいだけではありません。住みにくさ。小さい時から快適な家に住み慣れている娘さんは町家のような家にお嫁に行くのはいやだとか、ハイテクのオフィスに使うのに勝手が悪いとか、いろいろあります。地価が下がったのが幸いというか困ったことというか、マンションが続々と建つようになりまして、京都のまちなか、特に室町とか新町とかは、よほどの町衆の成功した人しか住めないところでして、一般の庶民が住みつくなんて昔はできませんでした。今では、二千五百万円のマンションもあって、そういうところにどんどん人が入ってくる。新住民を歴史的都心のコミュニティにどう迎え入れるか、様々なはたらきかけが試みられているところです。業者は容積率いっぱいに建て、それと比較すると、町家は日陰ものになってきているというのが現実です。そういう意味で、5年ほど前に、京都のまちのなかで、町家は存在感としても都市の活性化のためにも、守れるものは守ろうと悉皆調査をしました。報告書も書きました。京都市は町家は大事だとこの調査費を単独で出しました。その町家に住み続けるために、様々な良いところをアピールする、また、京都市も及ばずながら支援する。様々な方法がありますと提案してきたのですが、その及ばずながらが現在でもなお及ばずながら状態で、日々町家が消えていくのが現状です。