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13 Garden Lab

13 Garden Lab

   ウォーリン・ドゥルー・ケント(Drew Kent Wallin)さん   (Garden Lab 株式会社 代表取締役)

河原町五条からほど近く、手入れされた町家が建ち並ぶ一角があります。その間の路地のトンネルを抜けると、大きなもみじが覆う開放的な中庭が広がります。このもみじにちなんで名付けられた長屋路地再生プロジェクト「もみじの小路」で管理人をされながら、コワーキングスペース「Garden Lab」として2軒の町家を運営されているウォーリンさんにお話を伺いました。

表通りからは想像できない路地奥の空間。冒険をするような気持ちで入ってほしいという。

 

中庭に面して建つ「Garden Lab」。左側がコワーキング棟、右側が宿泊棟。

 

1.「もみじの小路」との出会い

 京都の大学で「京町家と庭」について研究していたウォーリンさん。その頃、住んでいた長屋の向かいの空町家群が改修されることを知り、定期的な打ち合わせに友人と参加するようになりました。工事も進みテナント募集を始めるころ、中庭などの共有部分があるなら管理人が常に必要ではないか、それも大家さんやこの町内を知っている人がいいという話になり、ウォーリンさんが手を上げることに。

「いつか自分でもビジネスを立ち上げたいという気持ちがありましたし、僕は庭のお掃除なんかも好きで、共有部分の管理ならできるかなと。」

中庭から眺めた1階土間スペースでのインタビュー風景。

 

2. ほどよく暗く、ほどよく明るい

ウォーリンさんは仕事柄、IT業界の新しく機能的なオフィスで打ち合わせをする機会が数多くあったそうですが、結局一番仕事がはかどったのは、いつも暮らしている長屋の空間だったといいます。そこには自然の素材と光と影があり、照明もほどよく暗く、ほどよく明るい。一見パソコン等の作業には不向きだと思いがちですが、実はそれが重要なのだとか。暗くなってきたなら、ちょっと休んだら?と、自然に人間らしいリズムに導いてくれるといいます。

1階はカフェ風のコワーキングスペース。夜はバーとして会員以外にも開かれ、自然な出会いが生まれる。

 

2階は靴を脱ぎ、それぞれのデスクで集中できるオフィススペース。

 

「現在は24時間働けるシステムになってしまっています。本来、生きていく上で食や睡眠などの生活のリズムを作ることが非常に重要です。それなのに現代人は克服したというよりも、無視している状態ですね。もちろん締め切り前など、徹夜で照明を明るくして集中しなくてはならないときもありますが、それが続く状態がいいとは思わなくて、またいい生活リズムに戻れることが大事です。」 

庭や土間は外との境界線が曖昧で、ほどよく外とつながっています。暑さや寒さなど、自然のリズムが現代のオフィスよりもずっと豊かです。町家で過ごすうちに人間らしさを取り戻すことができます。いつか色々な人にこのような働き方を提案したいと思ったことから、町家でコワーキングスペースという発想が生まれました。

 

3.町家とビジネスの相性

現代的なオフィスは利便性が高く、誰でも作業しやすい場所として作られていますが、すこし硬くも感じます。それに対して元々商いの場としても使われていた京町家には、座敷や庭といったおもてなしの要素があります。大切なお客様を招いてお話しする場として、よりビジネスに向いているのではないでしょうか。

「ものを見せたり、人と話したり、そういう用途に関しては町家は負けないでしょうね。秋の午後の座敷でお茶飲みながら二人座ってビジネスの話をする、その方が僕は好きですね。」

宿泊棟1階・掘りごたつのミーティングルーム。リモートできるようモニターも完備。

 

また、ここでしか体験できない空間であることも強みのひとつ。どこにでもある建物ではなく、ここにしかない日本らしさや、京都らしさを感じる空間が町家にはあります。機能的なオフィスをある程度回っている人がここに来ると、とても貴重な空間だと言われるそうです。

ただ、防音の問題は悩みの種で、コワーキングスペースでのリモートワークや、夜遅くまで意見を交わすミーティングには気を遣われています。町家らしさを保ちつつ、防音性を高める方法を議論しているところだそうです。

宿泊棟2階・滞在しながらのビジネスも可能な和室。

 

4.『Garden Lab』の由来は?

庭とビジネスに共通していることは、いくら人間が考えて計画しても、最終的にどんな形になるかはある程度しか計画できないという面白さだと言います。『Garden』も『Lab』も、自然と人間の働きの接点にあるもので、知らない方向から種が飛んでくるように、この場所に惹かれてやってきた人同士が自然に出会って、面白い進化をしていく。そんなビジネスを育てる場にしたいという思いを込めて、『Garden Lab』と名付けられました。

計画して植えた苔が枯れても、その場所に適した種類の苔が芽吹き自然に成長していく。

 

5.今後について

当初思い描いていた宿泊施設を兼ねた計画がコロナで形を変え、様々なイベントを開催するなど新たな試みをされてきました。予想外の出来事のおかげで進化した今の視野から、今後は改めて最初にやりたかったことをやってみるそうです。『いいものを作りたい』といった夢を持っている面白い人に、色々な国や地域から京都に来て、この場所で自然に交流しながら、リモートワークやワーケーションなど新しい働き方を体験してもらいたいとお考えです。

「それが形になったら、他の町でも『伝統の建築をきちんと愛されるいい形に改修して、そこで新しい試みをする』というような施設を、自分たちが作れなくても、その現地の方々と連携して作れたらと考えています。このような種をいろんな町に蒔けたらいいですね。」

樹齢100年を超える大もみじ。手入れによって蘇り、次の100年を見守る。

 

京都市の企業誘致サイト  “Kyo-working” でも「インタビュー」として、別の視点からのインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
URL:https://kyo-working.city.kyoto.lg.jp/article/interview/2022-11-29/

 

Garden Lab

URL:https://www.gardenlabkyoto.com/
Instagram:@gardenlab_kyoto
Facebook:https://www.facebook.com/gardenlabkyoto

 

(記 吉田玲奈)
(編集 京都市景観・まちづくりセンター)

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