町家はそもそも職住一体の建築。日々の暮らしのための私的空間であり、仕事を通して社会と関わる公的な空間でもある。伝統建築を懐古的に愉しむだけではなく、極めて現代のニーズに即した働き方を実現するためにもってこいの建築である。特に公私の時間を自由に行き来するクリエイティブ産業従事者には非常に相性がいいと感じる。
この物件は河原町と木屋町の間にあり、高瀬川・鴨川もすぐの立地。祇園も徒歩圏内にあり、五条を渡れば再開発が進む菊浜エリア。繁華街に近いのに、一本裏手に入って集中作業にも持ってこい。チームで創発して動くエンジニアとクリエイティブチームにはこれから良質なインスピレーションが待っているエリア。
さらに空間に目を向けると、単一の目的にだけ使われる硬直的な空間設定ではなく、使い方にある程度の可塑性がある方が、クリエイティブな人材や組織には使いやすいと思う。たとえば、普段打ち合わせスペースとして使っていた空間や家具が、クライアントやパートナーとの会食や、展示のレセプションの舞台となる。こうして境界が滲んでいく時にこそ、新しいビジネスの機会が生まれると思う。会食を街にアウトソースせず、敢えて町家の中で、自分たちの手で饗応することで親睦をぐっと深めるというのも、職住一体の町家だからこそできるもてなし。
そして天井高は正義。床面積だけを追い求めないリノベーションは、まさに北米や首都圏の経済的効率を重んじるスタンスとは違う、悠々とした京都らしさを直観できる設え。