『草と本』は、スポーツの守護神として有名な白峯神宮(上京区)にほど近く、「ヤマ」に「イチ」の字が描かれたガラス入の大戸が目印の京町家です。
イラストレーターのダイモン ナオさんがアトリエ、ゲストハウス、レンタルスペースを兼ねた場として運営されています。
2020年にオープンし、今では、インスタグラムでその賑わいが伝わってくる『草と本』にお伺いしました。
1. 『草と本』の名前の由来
ダイモンさんが『草と本』を始めたきっかけは、ご自身のアトリエの引越し先を探していた時、偶然、近くで友人が運営していたゲストハウスが空いたことでした。アトリエに使うだけでなく、宿を引き継ぎ、一階の広々とした空間をカフェのように人が集まれる場所にしようと考え、借りることを決められました。
名前の由来をお聞きしたところ、谷川俊太郎のエッセーの中で見つけたワードだそうです。「草花や緑色が好きで、“草”という字が好き。本が並べてある宿が好きで、自分も含めて、周りにデザイナー、編集者、カメラマン、ライターなど本作りに関わる人が多く、作った本を宿に置けたらいい、これはぴったりのワードだと思って、『草と本』に決めました。」
2. 「引き寄せ力すごい」
『草と本』のインスタグラムは、個性的で美味しそうなランチ、デザートやイベントの画像で一杯です。毎週火、水曜日は和菓子屋さんのカフェの日となっています。
PRはほぼインスタグラムだけ。それでも口コミで広がって出店者が集まり、食だけではなく、煎茶道のお稽古、『女性のからだを整える京都研究所』講座なども開催されています。取材の日には、ピラティス教室が予定されていました。
『草と本』に、人や料理が集まっている様子は壮観です。
開業当初から関わりのあった焼菓子店が、最近、近くの町家を改装してお店を開かれたこともあって、ダイモンさんの引き寄せ力はすごいと言われているそうです。
「先方からの提案を受けて、相談に乗りながら、こんな形ならできますねと言って調整をします。いくつかのコラボもそうして実現したものです。ひとりでにどんどん広がっていく感じです。今後も私が思いもよらない使い方を提案されるだろうし、町内との関係、この建物の特性から考えて、できるものをやっていくつもりです。」
ダイモンさんは、町内とのお付き合いを大切にされていて、地蔵盆のためのスペースも提供されています。
3.使い方が無限大
『草と本』は、二階が一日一組の宿とダイモンさんのアトリエで、一階のレンタルスペースは、フローリングのミセノマの奥が4畳、6畳、8畳の広々とした続き間となり、庭が続いてます。
「続き間にはものを置かないようにし、テーブルや椅子も片付けやすいものにして、スペースを広く使えるようにしています。厨房もしっかりしているので、カフェや食のイベントに使いやすいようです。ピラティス、ヨガの教室や、声楽のコンサートにも使ってもらっています。ここは使い方が無限大だから、いろんな使い方ができるよね、と友人から言われます。」
奥庭もきれいに整備されています。入居した頃はただの朽ちた庭だった庭を、庭師さんや友人の庭園デザイナーに頼んで整備されました。
「苔も増えてきて、すっかり息を吹き返して良いお庭になってくれました。」
縁側のアルミサッシを木製建具へ取替えることや、畳、エアコン、聚楽の壁などをコロナ対策を組み込んだものに替えるなどの改修も完了しました。この改修は府の補助制度を利用して実施されました。
『草と本』は、ダイモンさんの手によって、素敵な場所であり続けています。
4.これから
「『草と本』は、健康でも、食でも、文化的なことでも、発信する側にとってお試しの場であり、受け取る側にとっても気づきのきっかけになってほしい。体験したものに、興味を惹かれたら、もっと勉強すればよい。例えば、薬膳だからといって一つのお店にお願いするのではなく、いろいろなお店の薬膳を経験してもらっています。なにを選ぶのかはご本人が決めればよい。私は、場を提供できればよいと考えています。」
京町家は、人が集まりやすい空間として、多くの工夫が込められています。そこに、ダイモンさんのお人柄と広い人脈による求心力、たゆまぬ努力が加わり、『草と本』は順調な運営が続いているようです。
これからも、様々な人が集まることのできる楽しい場所であり続けることを期待しています。
○草と本
Instagram @kusatohon
※(公財)京都市景観・まちづくりセンターが、2020年秋に開催した展覧会『Machiya Vision』(KYOTOGRAPHY京都国際写真展と共同で主催)では、ダイモンさんにインタビューさせていただき、お住いの京町家についてお話を伺いました。その際の映像をご紹介します。