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17 西陣麦酒 ―社会福祉法人菊鉾会 ヒーローズ―

17 西陣麦酒 ―社会福祉法人菊鉾会 ヒーローズ―

野村尊実さん(社会福祉法人菊鉾会 ヒーローズ 施設長)

堀川今出川の少し西、西陣エリアに位置するこの場所に、社会福祉法人菊鉾会ヒーローズが運営しているクラフトビール工房「西陣麦酒」があります。今回はそのヒーローズの施設長である野村尊実たつみさんにお話を伺いました。

1.初めて見たときに、ここや!と思った

 京町家に移る前は、近くの西陣産業会館で活動をされていた西陣麦酒。NPOから社会福祉法人に切り替わることで、西陣産業会館では指定基準を満たさなくなってしまい、移転先を探しておられました。西陣織関係の方からの紹介でこの京町家を初めて見たときに「ここや!」とすぐに決められたそうです。立地、福祉施設としての空間、タップルーム、以前より広い工場など求めていた条件に合っていただけでなく、この立派な外観も気に入られたといいます。

 ただ、気になるのは福祉施設としての耐震基準を満たせるかどうかでした。耐震補強工事には専門の構造設計士に入っていただき、その工事費はオーナーさんが負担してくださったそうです。また、その他の改修費に充てるため、クラウドファンディングで寄附を募り、完成の際には特典として見学会を開催されました。参加された方は、京町家の中にビール工場がある光景に驚かれていたそうです。

火袋の残るトオリニワでクラフトビールを楽しめる

 

オモテの間につくられたクラフトビール工場

 

2.地域と関わり、地域で暮らしていく

 ヒーローズは主に生活介護事業と就労継続支援B型事業を行っており、特に自閉症の方が多く通所されています。クラフトビールを作る作業だけでなく、園芸作業をしたり映画を観たりと、それぞれの特性やニーズに合った活動をされています。就労継続支援B型事業で作られた商品というと、クッキーやパンなどを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、立ち上げて間もないヒーローズが、すでに多くの競合者がいるクッキーやパンの製造をはじめても、売れるようにすることは簡単ではありません。そこで敢えて選んだのがクラフトビールで、売れて収入になるだけでなく、「人気のクラフトビールに携われている」「有名なお店やスーパーにも置いてもらえている」ということがやりがいになっています。また、西陣麦酒のお客様はビール好きの方や地元の方はもちろん、福祉に携わっている方もいらっしゃるそうで、他のクラフトビール店にはない出会いもあるそうです。

綺麗にラベリングされたビール瓶

 

人とつながるという意味では、京町家もビールも共通点があるように感じます。京町家という建物は、外部と緩やかにつながるように構成されています。前を通りかかった方がふらっと立ち寄りたくなる店構えと、店内にいると聞こえる通りの人の声。京町家という空間が、人と人をつなげてくれています。さらに、店内でビールを楽しんでいると、向かいの方や隣の方と「どのビールを飲んでいるのか」「どれが美味しかったか」など、ビールをきっかけに会話が広がります。ビールと京町家とが掛け合わさることが、地域の方とヒーローズで活動されている自閉症の方とのつながりを豊かにしてくれているように感じました。

ネオンサインが目を引く風情の残る外観

 

会話が弾む立ち飲み・相席スタイルのタップルーム

 

3.WELL-BEERING!(ウェルビアリング)

 西陣麦酒の理念「WELL-BEERING!」は「Well Being(よい状態、満たされた状態でいる)」と「Well Beer(至極の一杯)」を組み合わせた言葉で、「ビールを通して人生を豊かにする」という意味があるそうです。支援を通して障がいのある方の人生をその人らしく豊かにする、さらにその活動の中で生まれたビールを飲んで幸せになってもらうという、障がいの有無にかかわらずビールを通してつながった人々への思いが込められています。

真剣に思いを語ってくださる野村さん

 

4.ビールで社会課題を解決

 ヒーローズでは、地域との連携や農業と福祉を結びつける「農福連携」にも力を入れておられます。「ふぞろいの麦たち」というビールは、石巻のソーシャルファームで栽培されたホップと、前橋の福祉施設で栽培された麦を使って、京都で製造販売を行っている商品で、ラベルはヒーローズで活動されている画家の絵が使われています。地方の農業の課題である出口戦略を解決するため、観光客の多い京都で製造販売を行う商品を開発されました。

ヒーローズで活動する画家が描いた「ふぞろいの麦たち」のラベル

 

 「エビバデ京ほっぷ」という商品も、課題を解決すべく作られた商品です。京都の中でも都心部にあたる中京区では、人同士のつながりが希薄だということが課題とされています。中京区役所では屋上を定期的に開放しており、その一角でガーデニングを楽しめるようになっています。「エビバデ京ほっぷ」は、その屋上で栽培されたホップと、地域の方の自宅や高齢者施設で栽培されたホップを収穫祭の朝に収穫し、その日のうちに仕込んだビールです。京町家を借りて行われたお披露目会は、多くの方との交流の場となったそうです。

「エビバデ京ほっぷ」で使用されているホップ

 

 

左から「ふぞろいの麦たち」「まんまビーア」「エビバデ京ほっぷ」
「まんまビーア」は過疎に悩む京都中川地区に伝わる日本古来の茶葉「まんま茶」を原料に使用したビール

 

4.ビールの京都、西陣!

 西陣という名を付けているからこそ、建物のオーナーを含め地域の方々の期待に応えたい、西陣に貢献したいと語る野村さん。西陣には他にも、クラフトビールのブルワリーや魅力的な酒屋、角打ちがあり、その方々とも協力して地域を盛り上げていきたいと考えておられます。目標は「海の京都」「山の京都」のように、「ビールの京都、西陣!」と言えるようになることだそうです。ビール作りを通して、関わる方々を笑顔にしていく「WELL-BEERING」の輪を、これからどんどん広げていかれることを楽しみにしています。

 

 

 

 西陣麦酒

 HP https://nishijin-beer.com/

 Instagram @nishijinbeer

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