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11 〇間-MA-

11 〇間-MA-

酒井俊明さん(合同会社 間 代表)

東寺の五重塔を望む、九条大宮の交差点を南へ。少し歩くと、レトロな美容院や写真館が残るまちなみに大型の京町家が現れます。お茶を味わい、時の流れを楽しむことができる空間、現代文化サロン「〇間-MA-」です。

扉を開けると、まるでにじり口をくぐって茶室に入った時のように、外界とは異なる空間が広がっています。アンティークの飾り棚には工芸品やお茶、日本茶をベースにしたフレグランスが並び、訪れた人が購入できます。

この京町家は100年ほど前に建てられ、もともと炭問屋、質屋として使われていました。驚くことに、かなりの部分をセルフリノベーションして、現在の形に落ち着いたそうです。運営する「合同会社 間」の代表、酒井俊明さんに、お話をうかがいました。

築約100年の京町家を活かした「〇間-MA-」の外観。2階の杉戸はセルフリノベによる塗装のもの。

 

玄関を通って奥に進むと、アンティークの家具や雰囲気のある招き猫に出会う。


1.第一印象は「お店には難しいかなあ」

大阪府でデザインやブランディングの仕事をされていた酒井さんが、知人を通じてこの京町家の存在を知ったのは2018年のこと。見に行くと、洋室と和室が入り混じるなど昭和的な改装がされているうえに、ごみも含めて、使えないものが多くたまっていました。また、世界遺産・東寺の近くではあるものの、主要な観光地からは離れているため、集客に不利なのでは、という点も気になりました。

酒井さんは「大き過ぎるし、店をやるのは難しいかなあ」と躊躇されましたが、大家さんの「ある程度自由に改装していいですよ」という言葉にひかれました。

裏千家で茶道のお稽古を続けている酒井さんには、京都で新しいお茶を提案していきたいという思いがありました。コンセプトがしっかりしていれば大丈夫と考えて、この京町家を活用することにされました。

海外に行くと日本人としてのアイデンティティを問われることが多くなり、その答えを求めて茶の湯の道に。

 

2.セルフリノベに挑戦

とはいえ、気になるのは改修費。なるべくコストを抑えつつ、この建物の良さを活かすため、酒井さんはセルフリノベーションをされることにしました。

改修は母屋を中心に行いました。設計に関して、耐震改修や基礎の改修は建築士の方にお願いし、内装のコンセプト、デザインなどは酒井さんご自身で考えられました。大工さんには構造など基礎部分をお願いし、躯体はそのまま残して解体は建造当時に出来るだけ近付けるようにし出来るだけ元ある姿を活かす方法を考えました。

大工さんに色々教えてもらいながら、自分で玄関に石を積み、床板を貼り、庭も、草を抜いて木を植え替え、砂利を入れました。一人では大変な作業は、メンバーが手伝ってくれました。「茶房」の吹き抜けになっている壁一面には、様々な古い建具を貼り付け、異空間の雰囲気を演出しました。

「室内のしつらえもおもてなしの一つ、いかようにも変われるようにシンプルな箱の状態を目指しました」と酒井さんはご説明されます。

こうして2019年3月末に「〇間-MA-」はオープンしました。

廊下にはアンティークの飾り棚が置かれ、お茶などの商品が並ぶ。

 

茶房では椅子に座って、ゆっくりお茶を楽しめる。

 

3.お茶文化を伝えたい

「〇間-MA-」は、伝統的なお茶の文化を現代風に解釈し、幅広い人が心地よく楽しめるように工夫をしています。

メインの部屋「茶房」ではバーカウンターのようなテーブルを前に、椅子に座ってお茶を楽しめます。お点前を目の前で見ることができますし、正座が苦手な人にも、ゆっくり過ごしてもらえます。花入れには、季節の花が生けられています。

「茶道は様々なものを組み合わせ、季節に合わせたしつらえをし、おもてなしを行う一つの総合芸術だと思います。それは現代アートのインスタレーションのような空間芸術とも通じるところがあると思います。この京町家を使って、現代の日本文化の表現を続けたいです」と酒井さんはおっしゃいます。

バーカウンターのようなテーブル。すぐそばでお点前を見ることができる。

 

4.古いものが持つ力

酒井さんは「〇間-MA-」を改修される時、テーマを「継ぐ」に決められました。

「町家だけでなく、時を重ねてきたものには、ちょっとやそっとでは揺らがない重みがあります」と言い、それを丁寧に読み解きながら、建物の良さを活かした改修をすることに意義があると感じていらっしゃいます。日本には継ぎ接ぎ、金継ぎなどの文化がありますが、古いものを大切に継ぎながら将来に残していこうと、願いを込められました。

「〇間-MA-」では、もともとこの京町家にあった古い家具を飾り棚などに使っていて、建物の雰囲気とよく調和しています。玄関の古い金庫の上には雰囲気のある招き猫が座り、「茶房」のテーブルは古い廃材を継いだもの。廃材といっても、現在では手に入れることが難しい厚い板で、窓ガラスから差し込む太陽の光を受け、つやつやと輝きます。

日本茶をベースにしたフレグランス。ほのかで上品な香り。

 

5.今後について

残念ながら2020年から続くコロナ禍で、「〇間-MA-」でも講演会や音楽会など、大勢の人を集めるイベントを開くことが難しくなりました。それでも、ある程度的を絞り、感染対策をとりながら限定的な開催を続けておられます。

酒井さんはこの京町家がきっかけで、京町家に関心がある人々から活用の相談を受けるようになられたと言い、「ここを拠点に様々な人と出会い、お茶を通じて、新しい姿のカルチャーの発信ができたらと思います」と力をこめられました。

奥には離れがあり、暮らしていた人たちの歴史が感じられる。

 

 〇間-MA-

 URL https://0ma.jp/
 Instagram @0ma_kyoto

京都市では、市の取組をはじめ、歴史都市、文化首都、持続可能な都市、大学のまちなど、京都のまちの様々な側面について英語で発信する海外向け情報発信ページ(英語版のパブリッシングプラットフォーム「Medium」)を設けています。
「Medium」(下記リンク)にて、この記事の英訳をご覧いただけます。

「Medium」Kyoto Machiya Stories — Volume4: The Story of “〇間”

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